エデン 〜序章〜

あれから何年経つのだろう、私は何体奴等を殺していたのだろう、私がそれを忘れようとした時、奴等はまたやってくるのだった。

「あっ、三年前・・・。」
ふと、私は口からその言葉が出てきた。
古い病院の長椅子にたった独りで何かを考えていた。何を考えていたのかは今になってはそれすらもわからない。
その意味もわからずふて腐れる姿を手前の鏡で見る自分。
看護師以外誰もいないこの空間でそんな事をしている自分に恥ずかしさを感じる。
「ヒイロさん。」
看護師の声が私を呼んでいる。
私は、歩いてカーテンの向こうの診察室に向う。
そういえば、私のこの名前はいつからもらったのだろう・・・?
『三年前・・・。』
そうだ、三年前だ!
私は三年前にこの名前をもらった! 私のさっきの一言はそれを思い出したに違いない。
私の入った診察室には見覚えのある男の顔があった。
そいつの顔を見た瞬間「竹永」と判断した。
こいつとの出会いも三年前だった。この時点で先ほど言った三年前の意味がわからなくなった。
「ヒイロいや、No20080330と言おうか?」
いつも嫌味な奴だと思う、No2008330は私が三年前まで使ったコード番号だ。
「お前の不機嫌な顔を見るのに飽きる事が無いな。」
竹永はヘラヘラと笑い、聴診器を構える。
私は服を半分脱ぎ、胸部と腹部を見せる。聴診器の冷たい所が胸部の方にいきなり付けられ、少しずつだが自分の体温と同じ温度に変化する。
仕事となると奴の目が変り、さっきまでのヘラヘラしていた目は真剣な目に変わり素早い診察を行う。次は舌を見せるようにと指示する。健康状態は舌を見ればほぼ一発でわかる、それができなきゃ医者はやっていく事はできない。なぜか竹永のこの言葉が思い浮かんでいた。
「異常は無いようだね。」
気がつくと奴の目はいつもと変らないヘラヘラした目になっていた。
「奴等と戦う気持ちはどうだね?」
私が診察室を出ようとすると竹永はいつものように私に問う。
「・・・。」
 私はいつものように無言のまま診察室を出た。

 東京都渋谷、活気のあったその町は、今は瓦礫の山と廃ビルが並び、その中にはホームレスなどが住み着いている。
 ごく希だがまだ使われているビルもあるがその荒んだ管理は計り知れないものとなっていた。
何故、こんな姿になってしまったのか、それは何年か前になる。東京都渋谷区に突然現れた謎の生命体、通称「クリーチャー」により目的不明の破壊行動が行われた。
その後、各地に現れたクリーチャーに対して結成された組織「エデン」が結成された。
エデンが開発した特殊スーツと人口金で対クリーチャー部隊と極秘で結成させた。
エデンの名を知る者は少ないが、極秘部隊の存在を知る者は多い。
そして、人々は極秘部隊の事を「ラグナロク」と呼んだ。

『行きます。』
 黒い特殊スーツを身にまとい黒い仮面を付けた人がビルの四階屋上から地面にいる「何か」を見ている。
カリカリと動く巨大な生物、細く長い足に対して小さな胴体、まるでアメンボのような虫の形状をしている。
黒を身にまとった人はビルの四階からいきなり飛び降りる。落下の速度は落ちるたびに加速していく。
バキッと木の枝が折れるように乾いた音が響きわたる。クリーチャーの長い足が折れ、ちぎれてその場に落ちる。
「!!!!!!」
クリーチャーは超音波に似たような人には聞こえない領域の音を出す。それは衝撃波のように辺りを揺らす。多分ガラス類だったら割れているだろう。
「黒い人」は地面から現れ、巨大なアメンボの顔面を叩き割る。硬そうな甲羅がバキバキと音を立てて割れてゆく。そして奴の顔面から緑色の体液が流れ出てきて地面に倒れた。
人間と同じ位の脳が流れるように出てくる。奴等は人間と同じ様な考える力がある可能性を証明するようにその脳の色はピンク色だった。
ビルの向こうから蜂が飛ぶ音がする、音からしてその大きさは大きい。
『奴が来るよ。』
仮面の中から声が出る。男の声だ。
そして、取り囲むように人並みの巨大な蜂が「黒い人」の周りを囲む。
『アサシン五体発見、全ての排除を行う。』
 「黒い人」は一人で話しかけるように言う。どうやら、仮面の中に通信機がついているようだ。
『了解。あまりハイになるなよ。』
 男の声はそう返答をした。
 アサシンの一体は「黒い人」にめがけて突進する。そのアサシンを跳んで回避し、その後ろにいたもう一体のアサシンを地面に蹴り落とす。
 タイツのような黒い特スーツの太ももから二本のパイプのような物が出ている。そのパイプのような物は下側、踵の方が開いており、機械仕掛けのように蒸気がそこから絶えず流れ出ている。
「・・・。」
ドン!と何かが爆発するように音が響き渡る。その瞬間「黒い人」は地面のコンクリートを砕き跳ぶ。空中にいたアサシンは胴体を引きちぎられ体から脊髄のような白い線が出てくる。蜂の尾と胴から頭が地面に落ちる、グシャッと肉が落ちる音と巨大な蜂の尾を踏み潰す音が響く。シンとした空気が空気を重くさせる。奴等にも脳がある、この危険な空気をすかさず読んだが、体が一瞬のうちに引きちぎられ、地面にたたきつけられる。
 胴体が潰され、引きちぎられる仲間を目にして五体のアサシンは一瞬で死んだ。

『あまり無理しないでくださいよ、貴方は女性なんですから「ヒイロ」さん。たまには開発部の武器も使ってください。ほら、対クリーチャー用の電熱ソード! これなら奴等も一刀両断! 便利でしょ?』
 「黒い人」もといヒイロは通信機から聞こえる開発オタクの「新発田」の話を聞き流していた。
『だから、・・・で・・・でもな〜、あの奴等の殻を壊すほどの攻撃力を誇るなんて最高ですよヒイロさん! そして、さすが僕の開発した特殊スーツと人口筋!想像を超える結果だよ!次はどんなもの作ろうかな?』
 通信機からパソコンを打つ音が絶え間なく聞こえる。
「そろそろ切るよ・・・。」
『わかった。武器がほしくなったら開発部に寄ってきてよ。驚きの武器を紹介するから。』
 新発田はそう言うと通信を切った。
 ヒイロは深く息を吐き、スーツを解除した。体からまるで吸い込まれるように特殊スーツが箱の形になり小さく収められる。仮面も同じ様に箱の形に納められる。
箱が完成するとヒイロはそれを腰についているホルダーに入れた。
人口筋は物凄いものだ、人間の筋肉を何倍にも強化させて持久力、耐久力、腕力、脚力を強化させることにより人間の能力を超すことに成功した。そして人間の脳から放つ電気信号をより早く感知しやすく設計され、その電気信号を利用して、先程の特殊スーツを装備、解除を可能とさせた。奴等、クリーチャーに対しては現在これが最高の技術である、奴等の甲羅は石より硬い、唯一の弱点が間接の部分だが一般の人間ではそれに当てることすら困難である。
奴等は先程説明した通り人間と同じ様に考える機能を持っている。奴等の話す言語は不明だが、階級社会やコミュニケーションは人間と同じようにとる。
脳も大きさは異なるが存在するが、体から流す血は緑色の液体である。
その他にも人型のクリーチャーを観測したと情報来たが、それが本当かは定かでは無い。
ヒイロは先程の病院の地下にいた。地下は慰安室やホルマリン漬けの「何か」がいろいろと並べられている。それはごく一般の病院の地下のようだった。
その地下の奥にあるエレベーターにヒイロは乗る。専用のカードリーダにカードをかざし地下三階へと降りる。そこには白く明るい廊下があった。
その廊下は綺麗で、絶えず蛍光灯がついている。その廊下の奥が特殊部隊の兵舎がある。
『No2008330』と書かれたプレートが貼り付けられているそのドアノブには鍵穴があり、その鍵穴にヒイロは持っている鍵を入れる。カッチャと音がしてドアノブをひねると白い部屋にたどり着く、白いベッドに白いシーツ、白いテレビに白い壁、その部屋には窓があり窓の外は外の風景が映写されていた。個室の空間で独りヒイロはベッドに座っていた。
テレビは薄型だが一度もつけたことが無い。掃除もほとんどしなくてもいいし食事は食堂がある。地下三階とは思えぬ最高の場所である。 ヒイロの携帯電話が鳴る、この地下には地下用のアンテナが存在するので不可能な話ではない。インターネットの閲覧も可能だ。 ヒイロは携帯を手に取り、電話に出る。
「もしもし?」
『もしもし!? 姉さん! 元気ぃ!?』
この女の声からしてヒイロは「キムラ」だと判断した。
キムラはエデンの情報局で働く天才ハッカーだ。キムラと聞いたら他の局員が驚くほどだ。キムラは血縁上ヒイロの妹ではないが、キムラの姉は三年前に本人の目の前で死んでいる。私はその姉とまったく似ていない、キムラが持っていた姉の写真とまったく似ていないことがその証拠だが、人を見る目が姉に似ているらしくいつの間にか私の携帯番号もハッキングされていた。
『姉さんが心配だったから開発部の回線から聞いていたよ。またいつもの拳で戦ったの? 姉さんはいつも無理しすぎだよ!』
 いつものように、キムラは開発部の回線から盗聴をしていたようだ。
『でも安心した、姉さんが負けることなんて無いよね・・・。』
 だが今日のキムラはいつもの調子で話していない。
「どうした?」
 ヒイロはキムラに問うが。
『ううん・・・。なんでもない。じゃあ、姉さん頑張って!』
 そう言ってキムラからの電話が切れた。

廃棄工場の前、昔は東京タワー二つ分の大きさを誇っていた造船工場だが、今はクリーチャーの巣と化していて、誰も人は寄り付いていない。ここも何千人という人間が働いていたがクリーチャーの攻撃により血の海と化した惨劇の場所だ。
迷彩姿の人が三人、金網のフェンスの前にいた。特殊スーツを身にまとい、三人とも同じ仮面を付けていた。
「『黒いの』は来ていないのか? クロス」
 迷彩の一人はクロスと呼んだ同じ仲間に問う。
「アア、今日は外れている。」
 言葉が少しずれている。体のでかい男、クロスはなれない日本語で言う。
「アイツは少しズレテル、迷彩スーツが基本ナノニ、黒スーツ。」
「ああ、わかった、わかった!言いたい事はわかった。要するにそんな女が好きなんだろ? クロスは。」
 クロスは話しかけている方を向いて言う。
「『シマ』はずるい。」
 先程から話していた男シマは手持ちのナイフを持ち出し、言う。
「そんな事より早く始末しちまおうぜ。俺は腹が減ってるんだ。なあ『ケイ』」
「・・・。」
 ケイは無言のままで首を縦に三回振る。
「相変わらず無口だな・・・。まあいいさ。」
ケイは手持ちの剣でフェンスを綺麗にスライスする。その間にクロスは大型のハンマーを抱える。
「おせーよ、クロス。」
「ワリーィ。」
 クロスはすかさずシマに謝った。
三人は工場の周りを探索していた。現れたアサシン等はケイが細切れに切り刻んでいた。
「おい、暇だな。今日の任務完了じゃねぇ?」
 シマは呆れたようにクロスに聞く。
「ソンナ事は無い、あと少し殺せば終わりだよ。」
「なあ、わざわざ三人で小隊作らなくても一人で十分じゃねぇ?」
 シマの声にケイは首を横に振る。それに気がついたクロスは言う。
「何かあったら一人は無理、逃げられない。」
 クロスはケイの首を振る理由を付け加えて言う。
「わかったよ、三人で殺ればいいだろ? ・・・ん?」
 工場の向こうから人の影が見える。だが明らかにおかしい、この工場はクリーチャーの巣であるから人間は寄ることが無い。自殺志願者でも願い下げの場所だ。
「今の、見たか?」
 ケイとクロスは驚いて首を縦に振る。明らかにありえない所を見た。それは白い白衣を着た人間が歩いていたのだ。
「追跡を行うぞ、クロスは本部に連絡を入れておけ、戦闘の準備を行え、いつでも戦える準備をしておけよ。」
 三人の兵士は白衣の男に気付かれないように距離を離して移動するが。
「見たね?」
 いつの間にか背後を取られていた。
「だっ、誰だ!?」
 白衣の男は仮面のようなものをしていてわからない。だが人間が使う言葉を話していることからその男は人間だと思う。
「クリーチャーと言っておこうか?エデンの飼い犬たち。」
 男の仮面は仮面ではなかった、それは蟻の頭の一部を人間の顔にくっつけたようなものだ。背中には二本の足が出ている。
「私は、『アント』人間と同じ知能をもち、人間の能力を凌駕するほどの力を持つものだ。私が貴様らと同じ言葉を喋る事ができるのはそのおかげだ。」
 シマは『アント』を見て考える。
「私は一人だけでは無いぞ。我々は量産されている。」
 気がつくと三人の周りには同じ形の『アント』が取り囲んでいた。
「我々は人間と同じ『社会』と言う形を持っている。君達より良い『社会』だ。」
「ハッ! 所詮『蟻の社会』だろ!? 知ったことさ!」
 シマは近づくアントを切りつける。甲羅は柔らかく、体から緑の液体が噴出した。
「お前らは知らない、何故クリーチャーができたのか?」
 白衣を着たアントは絶えず三人に話しかける。
「しらねーよ! 貴様らのような憎い奴等なんか絶滅してしまえ!」
 周りにいたアント達は斬られたり、潰されたりしているがいっこうに消える気配が無い。
「無駄だ。我々を消す事はできない。」
 三人の周りには百を超えるアントが迫っていた。
「ヤバイ。ヤバスギル。」
 クロスはこの量を見て慌てるが、シマは嬉しそうになっている。
「落ち着け、俺らのこのスーツの装甲をそう簡単に破ることなんて不可能だ。奴等が引くまで戦うぜ。」
 だが、シマの希望もこの一撃で終わった。
「その程度か?」
 白衣を着たアントの腕はスーツの装甲を突き破り、シマの腹部にめり込んでいた。血が流れ落ち、シマはその場で倒れた。
「少し硬いかな? だが私の前では無力だよ。もういいだろ? 君達は死ぬしかない。」
 白衣のアントは右手を上にあげるが、何かを感じたのか何処かへと逃げていった。
「厄介な人が着てしまいました。私はここでいったん引くとしますか。」
 アント達は姿を隠し何処かへといってしまった。
『大丈夫?』
通信機から聞こえる女の声。それはヒイロだった。
「テメエ、なんでここに来た?」
 一瞬の安堵だったが、ヒイロの声を聞いたシマは憤りを感じていた。
『通信聞いてないの? 応援で私がここに来るって。』
「聞いてねぇ、応援の要請はしてねぇぞ。」
 シマはクロスとケイを睨みつけ確認を取るがクロスは怯えたような表情だ。
「俺、応援の通信聞いた・・・。」
 ケイも首を縦に振る。どうやらシマは聞いていなかったようだ。
「・・・。まあいい、怪我一人・・・。救護を頼む。」

「人型クリーチャー?」
 ヒイロは病室の地下で寝ているシマから敵の情報を聞く。
「ああ、クリーチャーのリーダーは白衣を着た奴が自分達を『アント』と呼んでいた。やつらの装甲は薄いが量は半端じゃねぇ、リーダーは俺たちのスーツを貫通させるほどの力と速さがある。今の俺だと太刀打ちができねぇ。」
 シマはヒイロの目を見て念を込めて言う。
「お前でも殺す事は不可能だ。可能性はゼロに近い。」
「・・・わかった。」
 ヒイロは何も言わずに外へ出た。
「熱いネ・・・。」
「言っている言葉が違うぞ。」
 ヒイロが出たのを確認したのだろう、やけにタイミングだけは良い。
「奴には、勝率が無いと言ったが・・・。いつか奴を倒す必要がある。それが近くなるか遠くなるかは解らないが。」
 シマは窓を見る。病院の地下はスクリーンで映された擬似の外が映し出されていた。
「解っている。だが・・・現在の俺の技術ではこれが限界だ。・・・解ってる。だが、これ以上は限界がある。・・・研究するさ。」
 新発田は携帯電話を切った。ふうっ、とため息をついた。
「技術の限界か・・・。そんな訳では無いな。これ以上は・・・。」
「新発田。」
気がつけば新発田の後ろにヒイロはいた。
「アントの奴等に勝つ方法は無いのか?」
 新発田は考える。
「・・・無い。ガトリングで兵力を削いでも、もし奴等が弾数より多かったら・・・。考えたくは無いが・・・。無理だ。」
 新発田はパソコンに向いプログラムを書き込んでいた。
「上からも同じ質問があった・・・。そんな事があって今はいい気分じゃない。出ていってくれ。」
 ヒイロは開発部のドアを開けると。
「ヒイロ。」
 新発田はヒイロに言った。
「絶対に戦うな。これは俺からの命令だ。」
 新発田の言葉にヒイロは何も言わず外へ出た。
 新発田はまたため息をつく。
「いつか、この時が来るとわかっていたのに・・・。もう、消える時が来たかもな・・・。」
   キムラはいつものように情報局の椅子に座っていた。情報局は味方から送られる敵の情報を収集することを目的とした部署である。その他には回線の接続を差し替え通信の効率を早める役目がある。電波をキャッチし交換したい相手と交換し接続する。昔の電話の方式を利用して連絡を取りたい相手と通信を行うことで、電話番号を直接入力するより早く通信をすることを可能にさせた。
 キムラの携帯に着信が入る。電話の相手はヒイロだった。
「姉さん?」
 ヒイロからの電話はこれが初めてだ。自分からの電話が多い分、ヒイロからの電話は無かった。
『今日は何も話すことは無いけど、元気な感じがするから安心した。またかけ直すよ。』
「姉さん!? 姉さん!?」
 キムラは携帯に何度もかけ直すが、反応が無かった・・・。
「来ると信じていました。貴方は私に勝負を挑みに来ると。」
 白衣を着たアントはこの廃工場に来た人間に言う。
「知っていましたか? 私達が何故できたのか? そして何故この世界を壊し続けるのか? 知りたいですかヒイロ。」
 特殊スーツ無しで来たヒイロはアントに問う。
「貴方は一体何者?」
 アントは廃工場に響き渡る大笑いをする。何も知らない者を面白おかしいように笑いその笑い声は止まることが無かった。
「私を倒すことができたら、教えましょう!」
 黒い影がヒイロの周りを囲む。
 ヒイロはホルダーについている黒い箱を投げる。黒い箱は紐状になり体にまとう。
 特殊スーツを着たヒイロの顔には構築されるように仮面ができる。
 周りには数え切れないアントが囲んでいた。数は300を超えているだろう。
「さあ、私のクローンたちよヒイロとダンスの時間だ。」

「何だと!?」
 新発田はキムラの電話を聞いた。驚いた声を出したが新発田は予想がついていた。
「今すぐ応援を回せ! 君は空いている人間を呼ぶんだ! 武器の準備は俺がする。二分! いや一分以内に10人以上呼べ!」
 新発田は電話を切ると椅子に座る。
「先輩・・・。貴方は真実を語りに来たのですね?」

「もっと力を使えばクローン達を簡単に倒すことができる。我を忘れろ、本能だけに従え自我を捨てろ。戦いを求めろ。強さを手に入れろ!」
 何百体のクリーチャーを倒したのだろう。周りにはアントの山ができていた。
 ヒイロの意識がもうろうとしてきた。体力の限界などではない。精神が何かに持っていかれるところだった。
 汗が止まらない、呼吸が乱れる。スピードやテンポが少しずつだが鈍くなってゆく。
「もうそろそろ、限界か?」
 ヒイロの目の前が暗くなり意識が飛ぶ寸前になる。周りにいるアントを大きくなぎ払うと体が止まった。ヒイロから出ているとてつもない殺気が周りのアントの動きを止めた。周りのアントは動く気配さえも無い。
「あああああああああああああああああぁ!」
 狂ったような大声を張り上げたヒイロは周りを睨むように見る。
「敵だ! 敵だ! 敵だぁ!」
 ヒイロは喜ぶように両手を使い力強くガッツポーズを決める。
 体にまとっていた特殊スーツは花びらが散るように外れる。
「ははははははははははっ!」
「実験は成功のようだな。お前はよくやった。」
 ヒイロの筋肉は凝縮され筋肉がビキビキと音が鳴る。普通の人間なら腱が切れていてもおかしくない状態だ。彼女は標的を目で決めると笑った。
 瞬間だった、彼女のいた地点の地面は割れそこには彼女の姿が無かった。十秒も経っていないアントの残骸はすぐに二十体分増えた。

「すばらしい。これが、私が求めていた強さ!」
 ヒイロは笑っていた。敵を殺すことを快楽としている彼女の前では止められる者などいなかった。
 数十分は経過した。周りにはもうアントの姿は無い。ヒイロは疲労で息が上がっていた。
「残るは私のみだ。最高の結果を得ることができた。もう少し改良する必要性があるな。」
 ヒイロは睨むように白衣を着たアントを見る。アントは白衣のポケットに手を入れ余裕を見せている。
「最後は貴様だ!」
 ヒイロは力を振り絞りアントに向う。意識は戻り、元のヒイロになっていた。強化スーツ無しでの戦いだが勝機がある感じだった。
「お前はそうやって人を殺していたのか?」
 ヒイロの体はその言葉に反応し、体が止まる。
「なんだと?」
「知らないのか? クリーチャーの元の姿は人間だったのを。不思議に思わないか?私が人間の言葉を喋る事ができるのは何故だ?」
 ヒイロは途惑う、もしそれが本当のことなら自分は何人の人間を殺していたのか想像がつくからだ。アントの残骸の目が悲しい目でヒイロを見ているようだった。
「嘘だ。 嘘だ!」
「本当のことさ、私は最新兵器の開発に失敗してこの姿になってしまった。もう二度と人間の姿に戻る事はできないだろう。」
 アントは着ていた白衣を脱ぐ、背中には大きな羽が生えていた。
「まあ、安心したまえ。それは私のクローンだ。不完全な私を殺してもベースである私が生きている限り何体でも生産できるさ。」
 アントは背中の羽をはばたかせ空を飛ぶ。
「また会おう。その時は私か、貴方が死ぬときでしょう。」
 アントはゆっくりだが空を舞い何処かへと消えていった。数体のアントもそれについてゆくように飛んでいった。
新発田の携帯に着信が来る。
「ヒイロは黙ったままか・・・。」
新発田は携帯で誰かと話をしていた。
「・・・わかった。後でまた連絡をする。」
新発田は電話を切った。その時、開発部の部屋から銃声が鳴った。新発田は地面に倒れた。紅い血が部屋を埋めていった。

新発田が死んだ事をヒイロが知ったのは病院の地下に戻り、自分の部屋に戻った事だった。真実を知る者が死んだ事に不審に感じたヒイロだが、新発田がこうなる事は予想ができていた。今開発部では現場検証が行われている。死因は自殺、拳銃で頭を撃ちぬいたらしい。 私は開発部の前でその光景を見ていた。死体は片つけられていたが、地面に流れる血がその死を物語らせている。もう新発田が喜ぶ姿などはそこに存在しなかった。
何故か、私の心の中にぽっかり穴が開いたそんな感じがした・・・。

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